ある夕方のことです。その日たまたま乗り合わせた電車が遅れており、車内はぎゅうぎゅう詰めの満員でした。運良く空いている席に座れたため、私は読書をしていました。しかしながら車内はみるみるうちに人でいっぱいになり、ひしめき合っていたことを覚えています。ガタンとした揺れを感じたため、ふと顔を上げたら斜め前に立つ男性が座席の方向に前のめりに体が傾いたのでした。男性も読書をしており、私の目に文庫本の表紙が飛び込んできました。その装丁を見た瞬間「あっ」と思い、表紙をひっそりと観察させていただきました。何故ならば私が以前読んだノンフィクション作家が手掛けたとてもユニークなタイトルの作品だったからです。以前出会った作品は中東を旅しながら見つけたその国々のお酒について紹介したもので、非常に面白いものでした。この日視界に飛び込んできた作品は、「納豆」について書かれたもののようでした。表紙にはターバンを巻いた男性と発酵させた豆の写真が載っていたのです。「なんて斬新な本なのだろう」と心がときめいてしまい、是非これを読みたいと思ったのでした。同時に前に立っていたサラリーマンの男性に心から感謝の念を抱いたことは言うまでもありません。いつでもどこでも面白そうなものを探すアンテナを張っていると、思いも寄らない出会いに遭遇するものです。この出会いがきっかけとなり、もっともっと貪欲に本を探求していこうと思ったのでした。